2021-01-01から1年間の記事一覧

酔茗傑作選7

火の色 深海の底に沈める 室の氣は重げに落ちぬ 微なる人の寢息は おぼめきぬ。 花のランプ 宵のままかがやき燃ゆれ 油吸ふ力をこめて またたくや火の葉はあへぐ。 今、外は暁闇の 星宮に残れる光 うすれゆく眼路の極みに 見うしなふ。 薄ら明 光こそ地には…

酔茗傑作選6

美食地獄 お前は、 美しい言葉の作り手。 お前は、 美しい言葉の寄贈者。 お前は、 美しい言葉の番人。 お前は、 美しい言葉の彫刻者。 お前は、 美しい言葉の生贄。 お前は、 美しい言葉の猟人 お前は、 美しい言葉の種子播く人。 お前、 何うしても美食地…

日夏耿之介の『明治大正詩史』(増補改訂版)から

河井醉茗についての評言を引いてみたい。結構、ぼろくそにというか酷評ですね。 「巻ノ上」から P,186 醉茗は温情の人、真摯の性で、その詩もほゞその愿款の衷情を吐露する事に成功しつひに一方の代表者となったが(代表者であるが必ずしも盟主ではなかった…

酔茗忌

没後56年。合掌。

河井酔茗傑作詩篇5

花 唇 かたき思ひのつぼむ日 むすぼほれたる唇。 かすかにゆるむ魂の緒 にほひありげに息づく。 くれなゐ深く氣ざして 生日の足れるあらはれ。 大海原の一波 ゆたにたゆたふ唇。

島本久恵   河井酔茗とともにーその九十年の軌跡をめぐって

平成13年9月に標記の講演会が堺市の中央図書館で島本融氏が行い、その講演録が平成16年1月に出ている。今、その講演録を読み終えたところ。島本久恵が書いた『長流』を読んでいないので理解が及ばないところが、多々ある。 夫である河井酔茗の戦時中の…

河井酔茗に酩酊

河井酔茗の詩集、昭和18年の『真賢木』と昭和21年の『花鎭抄』ともに金尾文淵堂からから出版されたものを手に入れた。 昭和21年の詩集は全部は確認できていないが、収録詩篇は既刊詩集からの選んだものであり、「選詩集」としょうすべきもの。奥付の裏…

河井酔茗傑作詩篇4

はてなき森 若き子を導き入れて 鳩は梢を放れたり。 誘はれし途は忘れて 踏めば小草の柔かき。 檜葉杉葉、重なり覆ふ 森の光はにぶくして 幻覺のありとや見ゆる 瞳の色のかがやきに。 ねむげなる合歡より出でて 葵にうつる紅の 花瓣に觸るると見えて 胡蝶の…

河井酔茗傑作詩篇 3

薄暮 薄くらき畳の上に 落としたる簪白薔薇 黄昏を拾ひもささで 吾思ひ、衿に埋む うづくまるならひとなりて 古き柱、人になづきぬ。 知らず、吾亂るる袖を ほの白き手に押へたり。 幻覺を胸に映して 吾想ふ世こそ描け、 待たばとて徒らなるを 少女の身、朽…

『河井醉茗遺稿詩集成』のこと

河井酔茗の詩集は古書としてもなかなか手に入れがたいものが多い。 ただ、詩人ご自身が自ら選んで詩集として単独に刊行されたものは、1946年(昭和21年)の『花鎮抄』(金尾文淵堂刊)を最後とする。 まだ、詩人がご存命であったおりに、小牧健夫解説…

河井酔茗傑作詩篇 2

葉 一言の葉を開くにも心より 生生とひらき出でたるこころよさ、 一言のたましひのわづらひに 口ごもりて力なき葉は地に落つる。 活動に覺めたる時は貝の葉を 蒼海の深きに探りはぐくみて 濃き油其葉に盛れば生命ある くれないゐの潮火となり燃ゆるらむ。 若…

河井酔茗傑作詩篇 1

霧降る宵 ひやひやと霧降る宵の 街の樹は遠のくすがた 家と家、遙かに對ふ あざやかに靑き葉選顫ふ 街の灯の疲れしかげに 消ゆる人、現はるる人。 晝見たる文字の象も 色彩も、ありとや想ふ すかしみる闇の深みに。 轟きは彼方に消えて 大都會もの輕やかに …

新體詩人に会いに行く5

木村草弥さんに感謝。 そのブログで島本融氏が群馬県立女子大の名誉教授であられたことを知った。わたしの好きな河井酔茗の二代にわたる詩人だと思っていたら、俳人でもあるそうな。 今、編著「千里横行」や詩集『時禱書の秋』を手に窓辺の雪景色を見ている…

新體詩人に会いに行く4

河井夫妻(河井酔茗と島本久恵)のご次男の島本徹氏は詩人でわたしが持っている詩集は、今ない「塔影詩社」から1978年に100部限定で出版された『時禱書の秋』。(この詩集については、別の機会に書く。) 時間は進む。平成13年に堺市の図書館で河井…