河井酔茗傑作詩篇 1

霧降る宵

 

ひやひやと霧降る宵の

街の樹は遠のくすがた

家と家、遙かに對ふ

 

あざやかに靑き葉選顫ふ

街の灯の疲れしかげに

消ゆる人、現はるる人。

 

晝見たる文字の象も

色彩も、ありとや想ふ

すかしみる闇の深みに。

 

轟きは彼方に消えて

大都會もの輕やかに

薄霧の底に沉みぬ

 

我いのち確に置けど

浮城は今や千尋

霧の海かくれてゆきぬ。