河井酔茗傑作詩篇 2
葉
一言の葉を開くにも心より
生生とひらき出でたるこころよさ、
一言のたましひのわづらひに
口ごもりて力なき葉は地に落つる。
活動に覺めたる時は貝の葉を
蒼海の深きに探りはぐくみて
濃き油其葉に盛れば生命ある
くれないゐの潮火となり燃ゆるらむ。
若き日に戀する人が息の緒の
打ふるふ聲と聲とを口づけて
すきとほる胸と胸との愛しみ
戀ならぬ不斷の我の影に添ふ。
わが言葉空ゆく雲のひと時も
人の世に同じ姿はとどめねど
むかへば自然其時の表現を
表はさむ外に二つの姿なき。
けざやかに花冠する白日を
うらうへに素肌の人は誤解られ
忌まれ探られ捨言を落葉の
葉蔭に透かし見つつも怪訝めり。