河井酔茗傑作詩篇4

はてなき森

 

 

若き子を導き入れて

鳩は梢を放れたり。

誘はれし途は忘れて

踏めば小草の柔かき。

 

檜葉杉葉、重なり覆ふ

森の光はにぶくして

幻覺のありとや見ゆる

瞳の色のかがやきに。

 

ねむげなる合歡より出でて

葵にうつる紅の

花瓣に觸るると見えて

胡蝶の舞のたわいなき。

 

想ふこと袖を飜せば

高き馨の花となり

花の香の醉より覺めて

凉しき風の葉に起る。

 

一葉、一葉、撒くや木の葉の

手に盡きむ日は限るとも

何處より背を向けて

引返すべき途あらむ。

 

雛鳩に導かれたる

美しき子の顔あげて

幻覺を踏み迷ひ行く

森の深さは涯しらず。