2021-01-08 河井酔茗傑作詩篇4 はてなき森 若き子を導き入れて 鳩は梢を放れたり。 誘はれし途は忘れて 踏めば小草の柔かき。 檜葉杉葉、重なり覆ふ 森の光はにぶくして 幻覺のありとや見ゆる 瞳の色のかがやきに。 ねむげなる合歡より出でて 葵にうつる紅の 花瓣に觸るると見えて 胡蝶の舞のたわいなき。 想ふこと袖を飜せば 高き馨の花となり 花の香の醉より覺めて 凉しき風の葉に起る。 一葉、一葉、撒くや木の葉の 手に盡きむ日は限るとも 何處より背を向けて 引返すべき途あらむ。 雛鳩に導かれたる 美しき子の顔あげて 幻覺を踏み迷ひ行く 森の深さは涯しらず。