日夏耿之介の『明治大正詩史』(増補改訂版)から

河井醉茗についての評言を引いてみたい。結構、ぼろくそにというか酷評ですね。

 「巻ノ上」から P,186

 醉茗は温情の人、真摯の性で、その詩もほゞその愿款の衷情を吐露する事に成功しつひに一方の代表者となったが(代表者であるが必ずしも盟主ではなかった)、このころの作は未だ未完成の個性なき稚態を免れなかった。彼の詩は「文庫」そのものとともに三十年代初中期に於いて鮮明な躍動を示した。

        同P,297

 河井醉茗は、三十四年、處女詩集「無弦弓」を公にし、内に詩三十三篇と小曲十五篇を収めた。多くは温藉な詩情が静謐な曲律をとって淑やかに歌われているが、人の心に

くひ入る力はあまりない。(ここに「いざよふ雲」「紅芙蓉」の一部を引用し)かすかな美であるが、氣取りも誇張も無さすぎる位にない謙譲な作である。この温情あって藤村の熱情もなく、泣菫の技巧もないかれがつひに一代の流風をかたちづくるに到らなかつたのは是非ない。

 巻ノ中から  p,62

  醉茗の詩は、日本的感情に立脚して、異端的憧憬のない所、雨、白とひとしく文庫的特色を示したが、気硬な行語のない替りに西洋的表現の新鮮もなく、平明なかはりに含蓄美は見られなかった。