河井酔茗傑作詩篇 3

薄暮

 

 

薄くらき畳の上に

落としたる簪白薔薇

黄昏を拾ひもささで

吾思ひ、衿に埋む

 

うづくまるならひとなりて

古き柱、人になづきぬ。

知らず、吾亂るる袖を

ほの白き手に押へたり。

 

幻覺を胸に映して

吾想ふ世こそ描け、

待たばとて徒らなるを

少女の身、朽ちむは惜しき。

 

行く水に影逐ふよりも

吾岸の小草に醉はむ

吾肩に人、手を下し

撻たば靜かに避けむ。

 

堪へかねし白日の愁も

つり忍草靜かに暮れて

ゆふべゆふべ眠らぬ夢の

うすやみに燭火なつけそ。